平和島~後編2/2

薄灰色した丸い天板のテーブルにイスが四つ、対角線上に置かれている。一枚のプラスチック板がなめらかな曲面を描いて、背中から腰、そして太ももまでの線を支える。硬さを感じることもなく、座り心地は悪くない。生地を通して少しひんやりするのも、どうにか許せる範囲だ。ここでも、わかりきった説明を真剣に聞かされ、視線を泳がせて一年ぶりの懐かしさをうかがう隙はなかった。ようやく解放されたときには、さらに一時間が過ぎようとしていた。

働く人の割には静かな空間が、間仕切りもなく、細長く広がっていた。その中程から、歩くと音が出てきそうな笑顔をたたえて“教え子”や旧友たちが一人、また一人とやってくる。みな一様に私のスーツ姿を見ては、目を丸くする。どうやら板には付いていないらしい。辞めてから一度だけ会ったu-chanにも、もう一年以上ご無沙汰している。その横で、ほんわかした眼をしているのが“子狸”だ。相変わらず男言葉が抜けていないのが、何だかうれしかった。

“役”と一緒に肉も付いたのか、以前の丸さに近づいているu-chan。その隣に並んでいるからか、それとも少し仕事を休んでいたからか・・・子狸は、体の線が少し細くなって、正面から見る顔もほっそりして見えた。対照的に大きく映る瞳。黙って見つめられると、視線が留まってしまうくらい魅力のある顔つきになっていた。でも、口をついて出るのは、今時の女の子がよく言う台詞。大人の色香までは・・・もう一息のようだ。

打ち合わせの時間でなくしたものを、すっかり取り戻してから、子狸と旧友の二人に見送られて、エレベータに乗り込んだ。階下に降りて、来た道を逆さまに駅まで歩いていく。自動改札を抜けてホームに上がると、ちょうど普通の品川行きが出たばかりだった。この後の急行までは、快特の通過を二本待たなければいけない・・・変わらない“乗り継ぎの悪さ”に閉口しながらも、まだ明るさが残るホームで帰路に着くことを素直によろこぶ。少しずつ日が延びた西の空には、底を赤紫色に染めた雲が浮かんでいた。