出会った頃は・・・。

体調が完全に戻ったわけでもないのに、こんな日に限って外出。しかも行き先は初めての場所、そして、そぼ降る雨は、朝の予報を裏切って冷たく落ちている。それでも代わりは居ないから、がらんとした10時過ぎの山手線内回りで、新宿に急ぐ。目的地は初台、新宿から京王新線で一駅だ。たった一駅のために乗り換えるのは面倒だけど、一度も空を見ること無く違う路線にたどり着けるのは、都心のいいところだ。

新宿駅で降りる。地下街の天井、十字路ごとに据え付けられた横長の表示板に案内されるまま、周りの流れに合わせるように進んでいくと、京王新線の改札が見えてきた。小さな桃色が配色されているのは、京王グループで統一されているのだろう・・・「昔は京王線しか無かったはずなのに」と思いながら、改札を抜けて4番線のホームへと降りていく。ホームの行き先表示板には、幡ヶ谷、明大前・・・と、学生時代を思い出す駅名が並んでいた。

初台のひとつ先、幡ヶ谷・・・知り合った頃のkeiが暮らしていた街だ。いや、街と呼ぶべき記憶は無くて、首都高速4号線の真下に平行して走る甲州街道沿いに、中高層のビルが建ち並び・・・高架の下、いつも薄暗い匂いのしていた景色だけが頭の片隅に浮かんでくる・・・洗面所は共同、もちろんユニットバスなんて気の利いたものは付いてなくて、四畳半一間の木造アパートは、今では考えられないほど、ひなびた茶色をしていた・・・。一駅の間では、そこまでだった。初台の駅で降りて、オペラシティの地下から表に出ると、雨空を覆うように首都高速が、頭の上を走っていた。