これがホントの走り初め 8

コースから吹きつける風を師匠のハイエースで避けて、ベンチコートにくるまり、いつもの粗末な昼をすませる。うたた寝を始めた師匠をそのまま寝かせておいて、午後の一本目もRMで出ていく。さっきより少し力を引っ張り出して・・・スロットルも2/3ほどの開度まで許して、ホームストレートを駆け上げる。インフィールドの狭いコーナーで、低いエンジン回転のまま右手だけを捻ると、一瞬、加速が鈍って息をつく。一番反応してほしいところなのに・・・半歩ずれるような、じれったい感じが、封印している左の人差し指を誘惑する・・・。

パドックで“針”、ジェットニードルを今までと同じやつに戻してから、コースへと帰る。今度は師匠も一緒だ。できれば、あと少しだけ慣らしをしていたかったけど・・・最後のひと勝負になりそうな予感に、右手だけじゃなくて左の指先も、封印を解いてやるしかないか・・・。西から差し込む光に土埃が揺らめいて、ようやく“ベスト”に近づいてきたMX408。最終の左コーナーを立ち上がるマシンのすき間を見つけて、CRFのクラッチレバーが先に離れた。ほとんど同時に、RM85Lのリヤタイヤが、激しく空転を始める・・・。

どっしりとしたCRFの加速に体が馴染んでいたせいか、解禁されてもすぐには全開にできない・・・。ただ、さっきまでと比べたら、笑っちゃうほどに車体は軽く、飛び跳ねるように加速していく。フープスからバックストレートへと続く“一本道”も、二つのタイヤをすべらせる真似はしなくなっていた。陽を浴びて、明るく輝く蛍光橙色。師匠のヘルメットが映す世界は、マールボロヤマハのYZR500に見えなくもない。シュワンツびいきのワタシ、途端にやる気がみなぎってくる。ホームストレートの入口。一度車体を垂直にしてから、“全開”にして後を追う。

<つづく>