これがホントの走り初め 9

iguchi師匠のリヤタイヤは、すぐ目の前にある。弾いてしまいそうなくらい、傍に感じる。でも、怖くはない。ぶつける気もしなければ、離される気もしないし・・・やっと“RM”が手の内に戻ってきた。CRFで追い駆けている時には無かった、その背中が大きく揺れて、よろめく。乗り換えてみてわかった、その俊敏な反射神経・・・“つるし”の一台と違って、師匠のマシンは、ずいぶん出来が良かった。それなのに・・・慌てなくても十分速いはずなのに・・・派手にリヤタイヤが暴れては、さっきまでのように引き離せないでいる。意識が後ろにも集中しているとすれば、それだけでうれしい。ブレーキレバーもしっかり握れるようになったし・・・残すは、ここからどうやって前に出るか・・・それが問題だった。

コースは“アウト一辺倒”のワタシ好みに、外から乾いてきている。師匠の姿だけではなく、薄茶色の路面も、手が届くんじゃないかと思えるほど、近く感じる。しかも前後のタイヤは、IRCの新品を下ろしたばかり・・・右手の指を引けば、確実に路面の流れが緩やかになるし、右の掌を手前に捻れば、むき出しになった固い粘土の表面を蹴りつけていく。「仮想W.レイニー」に向かって、クラッチレバーに左の人差し指と中指を添えるのも忘れない。それなのに・・・“敵もさるもの”、暴れるマシンを押さえつけながら、その差を詰めさせてはくれない。おまけに、寒くなってからの師匠は“持ち”が違うから、夏のように後ろを着いてさえいれば前に出られるほど、簡単ではない。分の悪い“我慢比べ”が始まった。

<つづく>