これがホントの走り初め 10

どのくらい後ろに居たのだろう・・・それすらわからなくなるほど体が固まって・・・フィニッシュのテーブルトップを跳び上がった姿は、まったく微動だにしない。ハンドルをこじったり、ステップから足を離してみたり、遊び心ひとつも余裕が無くなっている。二本の腕も突っ張り棒のように真っ直ぐハンドルバーを支えたまま、肘はちっとも動かない。先に音を上げそうになったホームストレートを何とか加速して、第一コーナーから第二コーナーへと短く駆ける。ここが一番師匠の背中に迫れる場所だ。コーナーを回り始めたCRFのサイドカバーに、RMのフロントタイヤが吸い寄せられて、「行くか?!」と思いっきり突っ込んだ時だ・・・一瞬、息をついたように爆ぜるのを止めたエンジンが、RMの推力を奪い、バンクの上からイン側に倒れかかる。

「ガス欠か?」・・・満タンにして出てこなかったことを悔やんでいるうちに、CRFの赤い後ろ姿がステップアップを跳び越していた。このままインフィールドの奥で息を止めてしまったら・・・いくつものコブを乗り越え、とぼとぼと押して帰ってくるには、少し力を使い過ぎた。第三コーナーのバンクをまっすぐに乗り上げて、スネークヒルをショートカット。そのまま最終コーナーを回って、ゆっくりとスターティングマシンの前にRMを停める。エンジンはアイドリングを続けていて、ガソリンタンクは“空っぽ”にはなっていなかったらしい。そんな黄色がスネークヒルのてっぺんから見えたのか、派手な橙色のヘルメットを傾げるようにして、CRFがRMの右隣に並ぶ。空になっていたのは、ガソリンじゃなくて、ワタシの体力だった。最後の“追いかけっこ”は赤いウサギに軍配・・・ちょっと悔しいけれど。

<つづく>