氷雨・・・

日付が変わるまでは、風の音も聞こえなかった。それでも天気予報が上手く外れることは無くて・・・明け方、波打つ遮光カーテンの隙間から、白く細い光と一緒に、コツコツと出窓のガラスを叩く雨音が忍び込んできた。掛け布団を引っ張り上げながら、左に寝返りを打って、湿った響きを背に、もうひと寝入り・・・。次にその音を耳にした時には、もっと固く輪郭もはっきりしていた。結露してにじんだ窓ガラスを指先で拭うと、すぐ下を走るアスファルトのあちらこちらに、大きな水たまりができていた。

昨日はたっぷりと春の陽気を味わえたのに、夜のうちに、夢のように消えてしまった。シロとネロを連れて玄関を出ると、吐く息が大きな白いかたまりになって、目の前を流れていく。水たまりが大嫌いなネロは、リードを右に左に引っ張り続けて、必死に逃げまどう。今にも首輪が抜けてしまいそうだ。畑の端に連なるビニールハウスの上を、風にあおられた雨が、バラバラと音を立てて走っていった。風は北から吹いていて、あらわになった手の甲に雨粒を触れさせる。雨は沁みて、指先が冷たくなっていく・・・。

その雨も昼になる前には止んで、北風に乗った冷たさだけが残されていた。窓ガラスいっぱいにはりついた露が、ところどころ、少しうねるようにして流れ落ちている。その窓の向こうには、色の無い空が、ただ広がっていた。