まだ火が消えたわけじゃなくて

少し早めに出てきたおかげで、駅舎の中にある書店をぐるりと回る時間ができた。『RIDE』の最新号、表紙に赤と白のストロボラインを引いたTZR250が、フロントタイヤを右下に大胆な構図で描かれている。“ヤマンボ”と揶揄された金色のブレーキキャリパーが、古めかしい正立フロントフォークの下に覗いている。全体的に赤みがかった春らしい装丁と、もちろんTZR250が見せる懐かしさに、思わず陳列棚に手が伸びていった。

巻頭の書き下ろしは、表紙を飾ったマシンが主人公だ。お決まりの絵を繰っていくと、排ガス規制で姿を消した2サイクルマシンへの鎮魂歌、ただ、寂しい感じのしない、バイクだけに夢中だった時代を呼び覚ますような物語が綴られていた。白煙に紛れる姿は、確かに壊れていると思われても仕方がない・・・まさか公道を走るマシンが4サイクルだらけになってしまうなんて、あの頃は思いもしなかった・・・。

TZR250の生みの親は、オイルショックを機に消えかけようとしていた2サイクルエンジンに、RZ250という名の火を灯した“ヤマ発”ことヤマハ発動機。贔屓にしているわけではないけれど、スズキとは違った“粋”を感じるメーカーだ。マツダが最新のディーゼルエンジンを開発したように、ヤマハにももう一度、驚かせてもらいたい・・・そんなことを考えていたら、すっかり時間が経ってしまっていた。改札の上で、電光掲示板の中の時計が、いつもの準急が到着する時刻を指している。“2スト並み”とはいかないけれど、弾かれるようにしてホームへと駆け下りていく・・・モトクロッサーだけは、まだ2ストが健在だ。