1972年2月28日

去年の暮れから、なるべく本を読むようにしている。それも、雑誌とかじゃなくて、できるだけきちんとした文庫本を通勤の鞄に入れて、行きや帰りの電車の中で開いている。薄いもので月に二冊ぐらいを読み切る・・・本嫌いなワタシにしては、いい感じの習慣になってきた。

今読んでいるのは、小池真理子の『恋』という小説だ。初版が平成七年だから、十七年近く前の作品ということになる。倒錯した“恋”の世界が、492頁にわたって綴られていて・・・長編小説が好きじゃないワタシには、めずらしい選択だった。もっとも小説らしい表現と、“軽井沢”が物語の大事な部分を包み込んでいるせいなのか、頁を繰る時間は、日増しに速くなっている。

描かれた時代は、遠く小学生だった頃・・・はっきりと覚えていることは、それほど多くは無い。その少ない記憶の中に、“あさま山荘事件”がある。当時、テレビで生中継されていた過激派と機動隊のにらみ合いが、いつ烈しさをみせるのか・・・CMを入れずに中継する姿勢が、すべてを語っていた。でも、小学生のワタシに、そんなことが分かるはずもない。ただ、母に言われるまま、トイレに行くのも我慢してじっとブラウン管に映された山荘を眺めているだけだった。

放水の後、クレーン車に吊り下げられた濃い灰色をした鉄の球が、山荘の白い壁に打ちつけられる。その記憶だけが鮮明だ・・・436頁まで読み進み、舞台は1972年の2月28日。鉄球がゆっくり壁を壊している、まさにその時、恋が終焉に向かって加速していく・・・なかなかの“設え”に、活字を追う視線も加速させられる。今から40年も前の話だ。