じゃあ、来週 3

コースの入口まで伸びた雨の痕。タイヤで泥を掻き上げないように、そろりそろりとBongoを走らせる。ギヤは3速。水たまりの下に隠れた路面の凸凹を、安いルーフ式のリヤサスペンションが拾い上げては、ぎしぎしと車体を左右に揺らしている。時々、勢い余って、びちゃびちゃっと泥水の撥ねた音が聞こえる。少し盛り上がったコース入口を右にハンドルを回しながら越えていくと、泥にまみれたKX85Ⅱが左バンクからテーブルトップをいなして、ホームストレートへと消えていった。

「走るの?」受付の木製テーブルに張り付き、忙しく紙の印刷物を整えていたsaitoさんが、両手の動きを止めてBongoの中をのぞき込む。「えっ?!やっぱり、ひどい?」それには声を上げずに、一瞬、まぶたがぴくりと下がった。走行申込書を準備する様子もなく、ただ、困ったような顔をして「そこ、場所取りだけだから。停めてもらってイイですよ」と、すぐ目の前に目を向けた。薄れた雲から洩れた陽射しが、4台分を確保した長方形に、静かに降っている。いくつもの足に踏みつけられて、小さな水たまりが、光る欠片のように散らばっていた。

<つづく>