もうすぐ、春!

忘れかけていた空の青。雲ひとつなく、すみ渡って、江戸川の土手のはるか上には、得意気な太陽が上っている。昨夜のあられに濡らされた道端に霜柱が光る朝。東京では北風が舞っていると、テレビの中で話している。まだ冬晴れと言った方が似合うくらいに、空気は固く締まっていた。ただ、陽射しが明るく大地を照らすだけで、何もかもが許せてしまう・・・そんな気にさせてしまうほど、ずっと湿気た天気が続いていた。

せんげん台から乗り込んできた女性が、座るワタシの前で、背伸びをするようにつり革につかまった。薄手のロングコートは、それでも黒色で、首にはタータンチェックのマフラーを巻き付けている。まったくの冬支度だ。目線のすぐ先で、携帯を触る指が細く、長くて、爪は短く切りそろえられていた。目元をなぞる黒も自然な風合いを残していて、化粧をのせる必要もないくらいに肌には張りがある。可愛いだけじゃすまされない感じは・・・社会人二年生あたりかもしれない。

そのまま視線を手元の文庫本に戻していく途中で、肌色にきらめく足下が揺らめいた。縦糸が細かな線を引きながら足首からやわらかに弧を描いて、ちょうどふくらみきったところで膝丈スカートの黒い裾に消えていく。その曲線が窓からの陽射しに照らされて、化繊らしくきらやかに光っていた。電車の揺れに合わせて少し動く度に、ゆるやかな光の筋が揺らめく。周りは、みんな黒いタイツに染まっていて、ワタシの目の前だけが、明るくて、可愛く春を思わせてくれていた。そういえば、庭先にも可愛い春がやってきていた。去年、土手から集めてきた種が黄色い花を小さく開いていた。もうすぐ、春!河川敷のように小さな庭いっぱいを黄色く染め抜いてくれるといいな。