跳べない天使たち 3(完)

<3/11の続き>

思いがけず人生初のヒトカラになった。金曜の夜らしく、二人連れにあてがわれたのは、10人も入ればいっぱいになりそうな、こぢんまりとした部屋だった。奥行きのない横長の造りは、液晶画面との距離がちょうどいい。1時間ほど洋楽を中心に唄っていると、ゆっくりと部屋の扉を開いて、遅れていた歌トモがやってきた。二人でどこまで歌えるか?と話すよりも先に、さっさとリモコンから曲を送り始める。生粋のカラオケ好きだ。こっちも負けてはいられない・・・嵐、KAT-TUNと“聞き込んで”きた曲を立て続けに予約、もちろん、この日のために準備していた『擬態』も忘れない。Mr. Childrenのナンバーは歌トモの十八番、ワタシからのちょっとしたサプライズだ。

きっちり一曲交替で、また1時間が過ぎる。携帯のデジタル表示は23:59。あと1分もしないうちに、日付が変わる。順番は、ワタシ・・・中村あゆみの『翼の折れたエンジェル』を唄いながら、スリープ画面で暗くなった携帯を眺める。「翼の折れたエンジェル、あいつも翼の折れたエンジェル、みんな跳べないエンジェル」・・・この雨で、すっかり「みんな跳べないエンジェル」だ。気持ち良く叫び終れば、3月10日になって数分が過ぎていた。せっかくの誕生日、乾いた春風に乗って、ふわりテーブルトップを越えてみたかったけど・・・こんな祝い方も、悪くはないか。それから閉店するまでの6時間、歌い続けて外へ出ると・・・白んだ空に、まだ激しさをもって雨が降り続いていた。