これでも明日は・・・本降りの雨。

もはや、神も仏もあったもんじゃない。「地獄の沙汰も金次第」って言うぐらいだから、てるてる坊主を吊すだけじゃあ、御利益は無かったのかもしれない・・・。

雑居ビルの10階。ベランダにある喫煙所は、大人が3人も揃うと窮屈になってしまう。その喫煙所に抜けるガラス戸から、道路をはさんだ向かいのビルの屋上が見えている。陽に灼けて色褪せた朱色の看板が、陽射しを受けてやわらかく光っている。風も凪いでいるらしくて、昼を目の前にした街は、薄い春のベールを頭からかぶっているように静かに映っていた。

エレベータで下まで降ると、横断歩道をふたつ斜めに渡り、駅前のロータリーに沿って歩きはじめる。ひさしぶりに生パスタを食べに行く道すがら、さっき眺めていた看板は、ロータリーの反対側で白く霞んでいる。日陰の歩道を行き交う人のざわめきが、冷たい風になって後ろへと流れていく。開け放していたマウンテンパーカーを両手で押さえて前かがみになると、みんな少しだけ早足になっていた。

ちょうどスープとソースの真ん中ぐらい。なめらかで深みのあるクリームソースを、やさしい茹であがりの麺にからめながら、フォークですくいあげては口元へ。たらこの薄桃色した粒が、濃い白色の塩味を引き立てている。「パンがあれば」と思いながら、皿に残ったクリームソースを根気よく、丁寧にすくって、舌にのせる。4人別々のメニューを平らげると、ガラスのはまった木製の“自動ドア”を抜けて、再び外へ。

通りの向こう、高層ビルの広い足下には、明るい日だまりが落ちていた。それでも明日は朝から、それも本降りの雨になるという。あとは・・・賽銭を弾むしかないか・・・。