さよなら、EXC-R~前編

雨が上がっただけの空は、薄灰色にぼうっとしていた。まだしっとりとした朝に、少し温かな風が揺れている。体に触れる陽気は、見た目ほどには悪くない。すっかり朝寝坊がクセになった日曜日、ひさしぶりにガレージのシャッターを上げて、細く乾いたアスファルトの上に250EXC-Rを引っ張り出した。そのまま庭先まで押していって、ガソリンコックをRESの位置に合わせてねじる。国産車と違って、真ん中から左右に倒すタイプだ。奥まったところに付いているチョークレバーをまっすぐに引いて、スロットルグリップを5回、乱暴に煽ってやる。メインスイッチに刺さったままのキーを右にひねり、キックペダルもちょうど5回踏み下ろしたところで、アルミパイプが巻かれたサイレンサーから破裂音が響き、辺りが震えだした。しばらくチョークを引きっぱなしにして、エンジンをにぎやかなままにしておく・・・もう近所迷惑になることもないのだから。空気はじっとくすんだまま、EXC-Rの周りだけが、小さく動いていた気がした。

<後編につづく>