さよなら、EXC-R~後編

十分に暖まったエンジン。チョークレバーを戻して、サイドスタンドを右足ではらう。車道まで下がり、大きく蹴り上げるようにして、固いシートに跨る。一度右に体を落として、ステップに乗せた左の足首を下に動かす。ギヤが一速に入ると、エンジンが一回だけガクンと振動する。握りしめていたクラッチレバーをゆっくり放していくと・・・いつもと変わらない反応で、後輪が回り始めた。

細い路地からまともなアスファルトを加速する。シロとネロと行く、いつもの散歩道だ。その半分ぐらいのところにある小さな十字路で、マシンを切り返した。どうしても、この儀式めいた乗り方をしてしまう・・・7年を共にした愛車の、とっても短い“乗り納め”。戻ってすぐ、ryoと二人、carryの荷台にEXC-Rを載せる。その後から、オフロード用のホイールセットやスペアパーツを詰めた段ボール箱を二つ、空いた場所に積んで、木綿の荷紐で車体を固定する。二人に笑顔は無く、かわす言葉もほとんどない。

出来の悪い息子のため、その本人に“ドナドナ”されていく250EXC-R。ガラス窓から簡単に手を振って、橙色のマシンを載せたcarryを見送る。別れには申し分のない曇天が、いつまでも広がっているような気がした。