Separate Ways 4

Bongoの運転席側に置いていたセンタースタンドは、ryoがいつ来ても良いようにそのままにして、バックドアとスライドドアを閉め切り、服を着替える。ジャージの下は、エルボーガードだけ。Tシャツを着るのは止めておいた。BAY FMの時報が、9時を伝える。一番にコースへ走り出したのは、同じRM85Lを駆る子どもだった。マディにも、潔くて迷わないのがキッズらしくてイイ。ホームストレートから聞こえてくる排気音は、ひときわ甲高くて、マシンの動きと合っていない。混合のハイオク、そのほとんどをストレートの泥に喰わせてやっている感じだ。一昔前のアメ車を転がすような、景気の良い排気音が空へと届く。

やる気のある大人から、エンジンを叩き起こしては、コースの入口目指してパドックを抜けていく。隣にいた師匠はジャージ姿のまま、スネークヒルの縁に黒毛の愛犬を従えていた。#129のCRF150RⅡが目覚めるには、まだ少し時間がかかるようだ。新品のX-FIREもVFX-Wも持ってきたときのままにして、いつものブーツとヘルメットを用意して、RMのシートにまたがる。短いキックペダルを二度、三度と思いっきり蹴りつけると、チョークレバーを引かれたエンジンが、眠たそうに起きてきた。後ろを振り向くと、手首をひねる右手に合わせて、白いかたまりのような煙が生まれては、パドックの奥へとのんびり伸びていた。

チョークレバーを元の位置まで引っ込めて、エンジン回転と排気煙の“キレ”が良くなるまで、右の手首を規則正しく動かしておく。オイル臭のする白い煙は、サイレンサーの出口が向いた先にあるトランポに流れるから、いい迷惑だ。エンジンが良い子になって、白煙も鋭く吐かれるようになったのを見て、一度マシンを離れる。単色の白いヘルメットをかぶり、ゴーグルをこめかみと額に合わせて、マシンに戻る。そして、ギヤを一速に入れて、眠ったままのKXの横からコースに向かって走り出す。ステップに立ち上がって、腰の辺りから体を後ろに引いて、脚と腕を目一杯に伸ばす・・・少しの緊張が大きな期待を引き連れて、一本の細い線を描くようにRM85Lが加速を始めた。

<つづく>