Separate Ways 5

コースの入口、第二パドックへ続く路との境に張られた黄色いビニールテープの際にRMを寄せて、左足をそっと地面に降ろす。右足はステップに載せたまま、再び右手を規則正しく動かしては、コースを見やる。ワタシにはただの障害物でしかない最後のテーブルトップを、跳び出してくるマシンは一台もいない。どれもがイン側を丁寧に乗り越えて、そのまま広々と横たわるストレートの左端を走り抜ける。楽しめるはずのストレート・・・少なくても“出だし”の一本は、saitoさんが言うとおり、まともには走れないようだ。

ストレートを横切りながら、白っぽく光る第一コーナーのアウトバンクを目指す。生まれたばかりの勢いは濡れた土に邪魔され、リヤタイヤが空転する度に車体は右へ行ったり左へ行ったり、忙しなく暴れてくれる。そこを抜けると、今度は固く締まった褐色が、前後のタイヤを掴んで先へと追いやる。すぐにまた、やわらかなワダチが走る短い直線が現れて・・・そして、乾いてデコボコに削られた左の第二コーナーが近づく。ちぐはぐな路面は、フープスの入口まで同じ。左バンクの先、瞳に映ったフープスは、少し黄色がかった静かなうねり・・・コブの頂点はしっかり乾いて、マシンの勢いを受け止めてくれそうだった。

ここは陽当たりが抜群だ。まだ一周目なのに、ひと月半前に走った微かな記憶を信じて、ひとつ目のコブをその気になって跳ね上がる。七つあるくぼみのうち、いちばん深い二つ目のコブの先に、RMのフロントタイヤが落ちる・・・コブとコブの間は、よく練られた泥の溜まり場になっていて、ハンドルがほんの少し右に傾げていただけなのに、フロントタイヤを瞬時に右に流してくれた。推力と均衡を同時に無くしたRMが、斜めによろめきながらコブにぶつかり続ける。シャキとしたリヤサスペンションとオイルを交換したばかりのフロントフォークが、何とか倒さずに、フープスの出口へとマシンを運んでくれた。

走り慣れたはずのMX408も、ひと月半も離れていて、おまけに路面がゆるんでいるとなれば・・・腕にばかり力が入るのも無理はない。コーナーへの入口・・・やわからく蛇行したいくつかのワダチを前にする度、教習所で始めて一本橋を前にした時のことが思い出される。5周と持たずに、右腕の筋肉が乳酸でいっぱいに膨れて、ふらふらと最後のテーブルトップからコースを離れていく。戻った先に師匠のCRFは無く、Bongoの手前には通路側に頭を向けたcarryが停まっていた。41-71のナンバーを確認するまでもない、KX85Ⅱの主、ryoだ。ずいぶんとぼけた停め方は・・・いつもじゃ考えられない。

<つづく>