Separate Ways 7

昼を境にして、太陽が青い空と一緒にやってきた。さすがに陽射しは春そのものだ。コース幅を端から端まで使う走りはできないけど、普段のように速度を乗せられる路面になってきた。“腕上がり”もずいぶん和らいできたし、午後は、いよいよ「うさぎとかめ」。iguchi師匠と真剣に“追いかけっこ”だ。クラス分けになってしまって、城北Rの連中と一緒に走れなくなったのはつまらないけど・・・師匠とのバトル練習は、いつもながらに気分をワクワクさせてくれる。午前中と打って変って、やる気にあふれた師匠。13時の時報とともにCRF150RⅡのエンジンに火を入れて、猛々しい排気音を飛ばしては、豪快に暖機を始めた。

バックストレートの終わり、CRFの咆哮をRMが追う。烈しいブレーキングギャップにリヤタイヤを弾かれている視線の先、師匠の肩越しにスネークヒルの下りに立つryoが見えた。もちろんどんな顔をしているかは分からないけど、黒くて小さくて、気持ちの無い立姿だ。「『さよなら』って、もう二度と来られない今生の別れみたいに・・・寂しそうだったよ」先週一人でここにやってきた時のことを、saitoさんはそう言っていた。午後の一本目を最後まで眺めてから、空荷のcarryを静かに走らせて、ryoがパドックを後にしていった。

13時からの一本目。前を走るCRFが抜かせなかったので、ワタシの負け。次の二本目は、後ろから来るCRFを20分間抑えて前に出さなかったので、ワタシの勝ち・・・一勝一敗で、今日の「うさぎとかめ」は、引き分けだ。午後はあともう一本、15時からの10分走行を残すだけ。もうフロントブレーキレバーを引くどころか、「右手が思うように動かない」と、その10分に背を向けて、師匠がCRF150RⅡを洗車場へと引きずっていく。ここまで本気を出しきれるのは、午後からクラス分けになったおかげだ。20分で刻まれるから、どこまで頑張ればいいか、わかる。“終わり”があるのはありがたい。

ryoの居なくなったパドックは、少し広くて風がよく通る。「スネークの二つ目で・・・遅れるね」最後の10分を走りきったワタシの真後ろから、笑みの混じった声がぶつかった。さすがは師匠、弱いところをしっかり見ている。固く掘られたワダチには、どうしてもうまくマシンを預けられない。それが深ければ、なおさらだ。ただ、二つの口角を均等に持ち上げた顔が向いていたのは、胸の奥深いところだったのかもしれない。

<つづく>