三分咲き 後編

黄色い小さな玉を、風が左右に揺らしては、建物を避けるようにして通りへ流れていく。追いかける目を細くするのは、灰色の外壁が眩しいだけじゃない。吹き渡る風に乗った「春の使い」が、両方の瞳の中に入り込んでゴロゴロと、そんなに大きいのかと思わせるほど、ゴロゴロとするのが嫌な気がするから。思いっきり冷水で顔を洗ってしまいたいけど、そんなことをすれば涙が止まらなくなる・・・だから、擦るのさえも我慢、我慢。

今朝の準急は、東武伊勢崎線の新型車両。まだ新しめのシート、その端から二番目に空いているところへ体を挟み入れる。ほとんどわからないくらいの暖房は、外の冷気に負けていて、足下がやたらと寒い。ベルベットの下地が薄いのか、それともないのか・・・ほとんど沈み込まないシートは薄い紫色をしていて、余計に冷たさを増幅している。 LISMOを起動して、帆布のバッグから読みかけの文庫をつまみ出した。スマートフォンの厚みと同じくらい、その短い小説は、芥川賞を受賞している。

話は途中だけど、女性の“胸”を中心に進んでいて、もっともっと惹かれても良いはずなのに、いつも2から3ページで目が開けていられなくなる。今日は、ゴロゴロのせいなのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。正直どちらかなんて、よくわからない。あんまりに奇想で、朝の頭にうまく入ってこられないのか、それとも入ってこられても困ってしまうから防衛本能が働いているのか・・・何にしても、最高の賞を取るだけあって、片肘ついてテレビを見ているようなわけにはいかない。それでいて、春眠にも勝てない。