梅田?ちがう、大阪だってば~前編

7年ぶりになる大阪は雨の中。のぞみが新大阪に着いたのは、偏西風に乗って近づく巨大な低気圧よりも、少し早かった。行きの東京駅は、京葉線の地下ホームへと色付きの服を着た人が行列になっていたけど、新大阪の駅も明るくにぎやかだ。黒いスーツ姿の波間には原色の若者たちがあふれ、太陽のない空と見事に均衡している。まだ春休みの平日は、東も西も、艶っぽく見開いた幼い瞳でいっぱいだ。コンコースを下るエスカレーター、その右側に人の列がとどまっているのを見て、「あっ」と小さく声を上げる。ここは大阪。ちょっとまごつきながらも、その列の最後尾についた。もちろん、けだるく動くゴム製のベルトに右の手を添えて・・・。

仕事をすませている間中、低気圧は、風に乗せて大きな雨粒をばらまいていた。窓越し、風の流れをなぞるように、アスファルトの上を雨足が走っていく。不規則だけど、よどみなく、立っては消える雨音が、隣で営業マンが続ける話のように、だんだんと耳から聞こえなくなってきた。雨粒が水たまりに描く輪も数えられるようになって、先に峠を越したのは・・・雨のようだ。ビルから外に出て、60/40のマウンテンパーカーに袖を通し、折りたたみの傘を開くまで、雨はほとんど気にならなかった。大通りを左に折れて、駅のある方へ歩き始める。気まぐれな風が勢い吹き抜けて、傘のホネをあらぬ方向に折り曲げていった。空を覆っていた灰色は、早くちぎれてしまおうと、ところどころが薄くなって・・・隠れた水色が透けて見えてきている。ホテルに引っ込むには、まだとても明るかった。

<つづく>