梅田?ちがう、大阪だってば~後編2/2

間口の割に奥行きがあるホテルは、一階ロビーの奥に天然温泉の浴場を設えていて、なかなかに気が利いていた。おまけに朝食の用意までしてあって、セミダブルのベッドがうるさくない程度の広さの“ROOM 311”で迎えた朝は、この手のホテルにしては上々の目覚めだった。紙のカップに入った小粒納豆と秋鮭の切り身で、縁の無かった昨日を腹の奥底に押し込んで、決して開放されない小さな窓から外をうかがう。薄い雲が名残の強い風に流されて、太陽がきららと街に光を散らしていた。訳もわからず私鉄と地下鉄に案内されてしまったけど、今日は予定どおりJR。京都に寄り道をしてから、のぞみで帰る手はずだ。天王寺から「大阪環状線」(東京で言う山手線)で“大阪”に出て、そこから新快速に乗れば、すぐに京都に着く。“東京都区内まで”と記された大判の切符を自動改札機に呑ませて、並んで走るプラットフォームを右から左へと何本も渡り、一番左端のホームに降りる階段を右足から刻み始める。ぐるぐる回る環状線のはずなのに、「森ノ宮」と行先表示された古びた橙色の車両が、のんびり停車していた。それなのに、ホームにはざっぱに人がたむろしている。ほんの少しの違和感を、細い体にヒョウ柄上着を羽織った大人な女性にぶつけてみた。「この電車、大阪に行きますか」どこからも普通の標準語で、聞き違えるわけはないのに、「えっ、なに?梅田?」形は細くても、どうやら大阪のオバハンに当たったらしい。「いやいや、おおさ・・・」「梅田?梅田やろ?」「そうじゃなくて、おおさかに・・・」「なぁ、大阪ぁ?ああ、これは行かんわ。次のヤツや」って・・・最初から“大阪”って訊いているのに、大阪のオバハンには梅田こそが大阪らしい。その潔さと、憎めない語り口・・・オバハンじゃないけど、sumiちゃんに逢えたような気がした。