乾いた週末 5(完)

締まった土が、フロントフォークを固く弾いて、リヤショックを叩くように撥ねつける。それでも覚悟を決め、右肩に詰まった力を抜き、意識を集中させて人差し指を手前に引けば・・・フロントフォークはまっすぐに沈み、フロントタイヤを地面に押しつけながら、RMの速度が落ちる。左に車体を倒しこむ瞬間、RGV250Γで峠道を攻めていた感覚が蘇ってきた。立ち上がりでうっすらとすべり出すリヤタイヤ。粘り気のある泥にぶつかりながら、半分くらい地面にめり込んだタイヤが、ほどよくゆるんだ粘土に包み込まれる感覚が、マシンをつかむ手のひらになつかしい。

パドックに帰ると、青ゼッケンをまとう二人が「今日は、グリップ良いね」と、真逆のことを静かに言ってくる。うまいやつには逆らえないけど・・・ワタシには、やっぱり先週のバックストレートの方が気持ちよかった。そのまま受付の周りをうろうろしていると・・・「15分しか撒けないのかぁ」maedaさんが悪戯っ子の笑顔をこちらに向けてきた。その横で、saitoさんもまんざらでもない風だ。レースの前日。だから、今日は昼休みが無い。その12時から15分の間だけ、散水時間が取られていた。もう何ヶ月も、くすんだ山吹色の車体が、うなりを上げてコースを練り歩く姿を見ていない。

ニセmanabuに遅れること4、5秒・・・「パパ、ニセmanabuよりも遅いよ」saitoさんに言われるまでもない。周回タイムを知らされ、その数字は胸につかえたままになる。ならばと、最後の10分は、saitoさんに言われたスネーク二本目の上りを、アウトバンクから立ち上がってみる。バンクと言っても、用意されているのは、ホンの短い距離だけ・・・ホントは十分な距離があるのかもしれないけど、下りで加速しながら向かうには、短く小さすぎる。ここにぶつけて直角に翻すなんて・・・そうそうできるもんじゃない。

「かなり遠回りだから」・・・saitoさんが見立てたとおり、下り坂で加速できなければ、返って遅くなる。コースの中で一番“足を引っ張る”右の鋭角コーナー。これをアウトから華麗に立ち上がれるなら・・・iguchi車に後塵を浴びせることもできるはず。しばらくは師匠に内緒で“コソ練”、手始めに・・・まずは恐怖心の克服からだ!