#357~その1

このCRF150RⅡは、個体差なのか、サイドスタントで支えると必要以上に左に傾く。そのまま横倒しになってしまいそうな勢いだ。MX408コース情報を見てから、今日の相棒は赤い4ストマシンに決めている。ガレージから外に出す瞬間、RMには無い重量感が、ハンドルからずしりと伝わってきた。

6時に目が覚めた時に下に降りてしまえばよかったのに・・・そこからもう一度布団にもぐりこんだのがいけなかった。すでにテレビのワンピースも、話が半分を過ぎている。単行本が読まれていないままだから、ジンベイの語りも、頭の中でうまくつながらない。何かあったわけでもないし、仕事が忙し過ぎたわけでもないのに・・・時間が足りなくて、気の急いた冬だった気がする。その冬も、ようやく終わった。

細い県道に沿った中学校の校庭。並んだ桜には緑が目立つようになり、薄桃色の花びらは歩道を明るく染めている。対向車線を走る乗用車の、平らなボンネットと切れ上がったフロントガラスに、太陽が眩しく映り込んでいた。ゆっくりとBongoのサンバイザーを下ろす。車内のスピーカーには、ポール・スタンレーの声が繰り返し流れている。30年物のソロアルバムから“B面”の4曲ばかりを飽くことなく聴いていた。

<つづく>