フリー&フル 5

一度前に出たRMを、すぐにかわしていったCRF。体の動きを確かめるようにしていた走りは一変、「2ヶ月ぶり」が信じられない加速で、ホームストレートを逃げていく。どこかで、こっそり練習でもしてたんじゃないか?と勘ぐりながら、離れようとするその丸い背中に向かって、左指を少しだけ曲げてやる。ほんの一瞬だけ身震いをして、エンジン回転が時間を超え、フロント周りが何かに思い切り引っ張られる・・・半クラッチの“妙技”に酔うほどの時間もないまま、第1コーナーで右に曲げて、もう一回半クラッチ・・・#129のCRF150RⅡが、すぐ目の前で旋回している。「そうこなくっちゃ!」・・・“真剣”な追いかけっこは、やっぱり面白い。それが気のおけない師匠なら、なおさらだ。

その赤いマシンとRM85Lがフープスで並びかける・・・。アウトから斜めに切れ込んで、イン側を目指すCRF。進入したまま角度を着けずに、まっすぐ不格好にアウト側を跳ねていくRM。近づく師匠の背中越し、フープスの終わりに、見覚えのある赤と青の意匠のモトクロスウェアが近づいてきた。フープスを抜けて、大きく左に回っている間に、先にそのマシンが接近する。飾りっ気のない新車時のデカール。サイドカバーには、黒のゼッケン#51が貼りつけられている・・・。iguchi師匠と同じCRF150RⅡは、半年ぶりに見るokano師匠の愛機だ!体調が戻ったのなら・・・うれしくてしかたがない。右側の後ろにピタリと着いて、クラッチレバーを握り右手を三回、短く開閉すると、こちらに向けたヘルメットが軽く頷いた。喜びが伝わったのか、ゴーグルの奥の瞳はやわらかな色をしていた。

<つづく>