フリー&フル 6

<4/26の続き>

練習と言っても、やっぱり「遊び」。楽しまなくっちゃ、いけない。“大御所”から元気をもらった二回目は、追いかけられるところから・・・追うより追われる方が辛いのは、何もモトクロスばかりではない。サイレンサーを砕いてしまいそうな排気音が、近づいては離れて、を繰り返す。音が破裂するたび、後ろが気になってしまうから・・・一回目と同じ。どうにも分が悪い。おまけにアウトばかりを回っていては、コーナーの出口で真後ろにつかれるだけ。乾いた砂に乗り上げるラインでは、加速はもちろん、減速にもかなり神経質になってしまう。どうやら、そこが良くないらしい・・・「裏の直線も伸びがイマイチだし、コーナーの進入も甘い、甘い。もっと突っ込めるでしょ?」かなり頑張っていたはずなんだけど・・・師匠の眼には、そうは映らなかったようだ。「直線番長」「シュワンツかぶれ」が、聞いて呆れる。

そんな勢いのある音が、三周目に入って、急に遠くなる。バックストレートからは左側、第5コーナーを抜けて対向してくる姿が見えるほど、一気に離れてしまった。2ストに合わせて左の指を使いすぎたのか、愛機CRF150RⅡは、クラッチ板がすべり始めたらしい。低いギヤのまま右手を大きくひねると、エンジンの回転だけがガバッと上がって、後輪に力が伝わらない・・・そんなマシンを、何とかコースの出口まで運んできて、パドックに帰るiguchi師匠。ブーツを脱いで・・・そのまま師匠の今日が終わった。それでも、わずか二本を力いっぱい楽しんだようで・・・額の汗を拭いながら、口元をゆるませている。すぐに、okano師匠も戻ってきた。

こうして三人、向かい合うように話し込んでいたら・・・午前中の走行時間が無くなってしまった。「お昼の前に、もう一本」とイスから立ち上がり、手にした携帯の液晶には、うっすら11:57と映っている。もう終わりだ・・・。「ヘルメット被ってる時間もねえぞ」背中にokano師匠の笑い声がはじけた。冬が始まりかけた頃からだから・・・夢中になるのも仕方がない。「このところ速くなってきたから、やるんじゃないかと思ってた」これで、iguchi師匠が気にする“ざりまま”でもいたら・・・午後も走る時間が無くなってしまう。手のひらでひさしを作るようにして見上げると、どんどん薄くなった雲の切れ端から、太陽が姿を見せていた。さすがに陽が注ぐと、いっせいにまぶしさが降り、頬が薄紅色に熱くなる。朝には想像できなかった空。日に灼けそうだ。

<つづく>