フリー&フル 7

イバオのマネージャーにシゴかれた日を思い出しながら、午後はひとり、イン側を我慢して回る。ジャンプを跳び過ぎて、停まりきれずに何度かアウトバンクまで向かってしまっても、それでも黙々とイン側だけを回る。そんな健気な走りを、コース脇でiguchi師匠が眺めていた。「急にインベタで走っちゃって・・・もういいから、そんな練習しなくて」そろそろイバMOTOも近くなってきたし、少しは“勝てる”走りも練習しておかなくっちゃ、いけない。それも、師匠が抜けている今が好機・・・。

そんなRMに、どこに居たのかニセmanabuが、知らないうちにからんできた。「ココ一番の弱さ」は笑えけど、さすがに走り込んでいるだけのことはある。引き離されないようにするのに、右手が腕上がりを通り越して、うまく動かなくなってしまった。何度かブレーキレバーを引き損ねて、怖い思いをさせられて・・・少しくたびれた青いリヤフェンダーを見える位置に留めるのが精いっぱいだ。スネークヒルの上り、右コーナー。上半身がマシンの傾斜角を過ぎて、右側に倒れ傾く。まるで自分を映したようなリーンインに「人のフリ見て我がフリ直せ」と呟いた。3周と持たず、現れた時と同じく、どこかに消えたニセmanabu。持久力の無さは、健在だ!

そのYZ250Fがコースから離れていったと思ったら、後ろから威圧感たっぷりに排気音が近づいてきた。スネークに入るひとつ目の左コーナーで、軽く左に首を曲げて振り返ると・・・黄色地に黒い“31”が、視界の左隅に映った。カワサキ#31さんだ。インを塞いで走っていれば、4スト250ccとは言え、そうそう抜かされるもんじゃない。150相手の時よりは、はるかに背中を意識して、右手をほどき、両膝に力を込める・・・これで“立ち”姿は、ニセmanabuより速く見えているはずだ。YZ250FからKX250Fに変わって・・・クラス分け無しの「フリー走行」を楽しませてもらう。

百戦錬磨・・・MCの常連は、とにかく“巧く”走る。そして、無駄に“外”を回らない。しっかりと「記録を残す」走りに気圧されて、何度かRMのリヤタイヤが真横に逃げる。インを締めて走るのは、どうにもおぼつかなくて・・・かえって遅くなっている気がしてならない。すぐ後ろから爆裂音が聞こえれば、思いも募る。我慢しきれず、「記録よりも記憶!」と、第1コーナーから第2コーナーのアウトバンクに向かって、一気に加速。そんなRMを、カワサキ#31さんが見逃すはずもない。インのワダチを使い、事も無げにRMの前にフロントタイヤを突き出して、KX250Fが機先を制す。そこからフープスまで・・・排気量の差が出にくい、狭いインフィールで遅れないように、右手を握り直す。

<つづく>