ご機嫌な別れ 3

エレベーターを10階で降りて、左にある鉄製の重い扉を押し開けると、薄暗い空間の先に、もうひとつの扉が浮かんでいた。はめ込まれた磨りガラスからは、ほのかに蛍光灯の灯りがもれている。施錠を解除して中に入ると、パソコンのキーボードを叩く音が、カタカタカタとなめらかに響いていた。3/16。いつもの1/4にも満たない3人に、この空間は広過ぎる。背中合わせ、ジグザグに腰を降ろして、それぞれの液晶画面に映し出されたアプリケーションに向かって、キーを打ち続ける。軽快にSpaceキーとEnterキーを繰り返しては、白い画面に文字を敷き詰めて・・・昨日、思う存分走れたおかげか、空がどんよりとした灰色だからか、落ち着いた気分で時間が過ぎていく。電話もならない事務所に、3人の息づかいが微かに聞こえる。

ブレストガードを被り、首にネックブレースを回してから、RM85Lのキックペダルに手をかける。時間が無くてエアエレメントは先週のまま。エレメントが詰まっているのか、それとも外気温のせいか・・・目覚めたエンジンが吐き出す排気音は、先週よりも少し太くパドックに流れた。涼しいと思っていたのに、案外気温は高いのかもしれない。薄目のキャブ設定には、いい塩梅なのか、すぐに落ち着くエンジン。右手をスロットルグリップから離して、両手でVFX-Wを頭の上に載せていたら、CRF150RⅡが一台、パドックに帰ってきた。そのmachi-sanが言うには・・・「今はチュルチュルだけど、いい感じ」の路面らしい。maedaさんも居たし・・・黒褐色に染まったのは、“散水師”がきちんと仕事をしたからか・・・笑顔で戻ってきたところを見ると、その仕事ぶりに間違いは無いようだ。

<つづく>