ご機嫌な別れ 4

怪しげな雲行きを見上げて、日暮里の街に歩き出す。朝が軽かったのと、午前中から頑張ってキーを叩き続けたせいで、かなり腹が減っている。安くて盛りが良いとくれば・・・目指した「おもひで食堂」は、連休に合わせたのか、定休日でもないのに暖簾が終われていた。それじゃあ少し歩くけど、日暮里と西日暮里のちょうど中間くらいにある中華屋に向かって反転。「いらっしゃませー!」どうも“い”が抜けてしまう、元気な中国人の3人に迎えられて、カウンターの一番奥に席を取る。うまく拭き取れていないのか、タイル地の床は水浸し・・・接客係の“小姐”は、掃除がちょっと苦手なのかもしれない。

すぐにはコースへ入らず、ホームストレートにRMを停めて、蛍光橙色のヘルメットを探す。湿り気は風に流されることなく、ただ土の上に漂っている。その動かない空気を、時折フルサイズのマシンが撹拌しては、割れた金属音を引きずって第1コーナーの先に見えなくなっていく。その音は、でも、連続しない。朝の散水を嫌って、常連たちはまだ着替えも始めていなかった。散水車がまき散らした水煙は、染み込むこともかき回されることも無く、広いストレートのほとんどを黒く濡らしていた。少し待って・・・RMのキックペダルを踏み下ろす。視線の先、iguchi師匠がスタンディングのまま、フィニッシュテーブルの台形をなぞっていく。CRF150RⅡが、一瞬、見えなくなった。

<つづく>