ご機嫌な別れ 7

<5/6の続き>

店に入ってすぐに降り出した雨は、まったく止む気配がない。太い雨の筋が、アスファルトに弾けて、白く歩道に流れる。会計を終えて戸口から外をうかがう視線に、「傘、ありますか?」と首を傾げてのぞき込む。陽が落ちてからにわか雨があるかもしれない・・・天気予報では、昼間に雨が降るなんて、言ってなかった。だから、モンベルのトレッキングアンブレラも、幌布のバッグにしまい込まれたまま。事務所に置き去りだ。別に気の毒がる風でもなく、店を出たところの傘立てから一本、紳士用の傘を引き抜いて、目の前に差し出す小姐。薄茶色の細かい格子模様は、黒に近い濃い茶色の線が、外側を六角形に縁取っていた。広げた傘の下、小走りにロータリーへと向かう背中を、ちょっと満足したように見送る。遊んでいる他人には悪いけど、部屋にこもって仕事するには、おあつらえ向きの空模様になってきた。

メインジェットの番手を下げ、薄くなった混合気が、CRF150RⅡを俊敏にする。ゴボつくこともなくなり、重低音がしっとりと伸びていた。同じCRFなのに、machi-sanのやんちゃな排気音に比べると、ずいぶん上品に聞こえる。 相変わらずインとアウトを走り分ける師匠。「それなら」と、第2コーナーで不格好にインを奪い、そのままCRFの前にRMを出す。斜面の手前、まだRMは斜めで、半クラッチでは立ち上がれない。それでも譲らず、強引に第3コーナーを抜けて、ステップアップを先に跳び上がる。ここからは、先週の“走り込み”を生かしてインベタだ。フープスの入りと立ち上がりだけはアウトに寄るけど、ほかは全部、インのラインをつぶして走る。肩越しに4ストの重低音が付いたり離れたり・・・アウトを抜ける軽やかさがないのはわかっているけど、それでも気にせず、コーナーを小さく回る。ここまでされれば、師匠も簡単には前には出られない。体のすみからすみまで、熱さを覚えながら下るスネークヒルの先に、見慣れないカジュアルな服装の男が二人、すっと立ちすくんでいた。

<つづく>