ご機嫌な別れ 8

日が延びた休日に、暗くなってからエレベーターで下りていく。雨は上がって、星が一つ見える空に、まだ湿った風がビルのすき間で行き場を失っていた。ロータリーを彩るのは、不健康な光を放つネオン管。誘いかける赤紫色した輝きを背に、白いTシャツから伸びた二の腕が卑猥な形に照らされている。その細くて長い後ろ姿に引きずられながら、日暮里駅の南口につながる階段を、スニーカーで踏みつけていく。足下だけが、休日仕様だった。

まさか本当に来るとは思わなかった・・・スネークヒルを左に曲がりながら下って、外側のバンクが途切れると、二人組がデジタルカメラをこちらに向けていた。長い円筒形のレンズに下から左手を添えて、RMの軌跡をなぞるように動かす。「見られている」だけで、気持ちの入りがまったく変わるから・・・ずいぶん単純なつくりだ。フィニッシュテーブルの上で、右に視線を流してレンズの先を見つめる。「今日はまじめにコーナーリングの練習」をしていたmachi-sanも、カメラに気を良くして、いつもよりもずっと長く、コースの上にいる。師匠とワタシは、ずっと絡み合ったまま。スネークヒルの手前、ガソリンタンクが空っぽになってCRF150RⅡのエンジンが止まるまで、見られても恥ずかしくない走りを披露する。カメラ好きの上役も、連れと二人、初めて間近に見るモトクロスにうなずきながら、デジタルカメラのシャッターを押し続ける。「7、800ぐらい?1000かな?」とシャッタースピードをあれこれいじりながらマシンを追う姿は、どこかキャブレータのジェッティングを変える背中に似ていた。

<つづく>