願わくは 3

9時20分を前に、“先発”したフルサイズマシンが、ぞくぞくと自分たちのトランポの後ろへと戻ってくる。ゴーグルに、小指の先ほどの泥がブツブツとこびりついている。二台のCRF150RⅡは、とっくにスタート地点・・・出遅れたRM85Lの正面に、#3のYZ250Fが帰ってきた。肩が上下に大きく動いて、一本目から真面目に走ったらしい。「チュルチュルだよ~」ヘルメット越し、かすれたニセmanabuの声にうなずきながら、一度握ったクラッチレバーをゆっくりと放してやる。「いつもの苦労がわかったかな?」散水からひとクラス走った後のコースに向かい、背中で独り言ち・・・saitoさんにも、感謝だ。

Bongoの中でずっと。ずっと前からだから・・・家を出た時から。とにかく、ずっと秘めていた思いを胸にたたんだまま、スターティンググリッドの端で足下に視線を落とす。まだ少し湿っているけど、ホームストレートには、大きくタイヤを横滑りさせるような黒ずんだ褐色は見当たらなかった。目の前を流れるマシンの列が途切れた瞬間、machi-sanを、iguchi師匠を待つこともしないで、全開になったエンジンを左指で解き放つ。右手を小さく回すsatakeさんに背中を押されて、第2コーナーをインベタで立ち上がり、第3コーナー。そこから第4コーナーをはしょって、斜めにテーブルトップジャンプを目指す。斜面からまっすぐに跳び出し、砂利の浮いたてっぺんに一度落ちてから、右斜めに斜面を下りていく。その先のフープスは・・・すっかり白く、カチカチに乾いていた。

<つづく>