願わくは 7

減速用のとんがり山は、通称“スパイン”。崩れかけて明るい茶色が覗くその頂点を前に、心臓が外に聞こえるほど早く強く鼓動を始める。すぐに息が苦しくなって・・・おまけに、ここまで抱えてきた“思い”をくじくように、2ストロークエンジンが、一瞬息をついた。左の人差し指で呼び覚ましたエンジンは、スパインを乗り越えるようとする瞬間、右の手のひらに帰ってきた。ギヤを合わせる間もなく、鈍い加速を始めるRM・・・一番低いところに届く前に、もう一度人差し指を引いて、RMのステップに立ち上がる。たぶん、息はしていない。目に入っているのは、ワダチの消えた斜面の角。迷って跳ばなかったら・・・二周目は、怖くて跳べなくなる。それがわかっているから、最初からいくと決めてきた。ラインを選ぶことも、迷うこともなく、まっすぐに加速するRM。弱気になる自分に気づかない振りをして、そのまま斜面の端を跳び出した・・・。

フロントタイヤに続いて、リヤタイヤも斜面を離れ・・・RMがダブルジャンプの狭間に跳び上がる。あっと言う間の出来事は、とりあえず思いどおりの出来映えだ。小さな放物線は、すぐに折り返して、今度はRMが路面に近づいていく。真ん中が少し膨らんで、右から左にかけて、ゆるやかに傾いている二つ目のジャンプ・・・跳び越すつもりはさらさらなくて、そのてっぺんに乗っかるのを祈るように、RMの上で両脚に少し力を入れる。ガツン・・・前と後ろのタイヤがほとんど一緒に土の上に固く落ちた。てっぺんの後ろ端には何とか乗っかったようだ。大きく息を吐いてから、沈み込んだサスペンションに押し出されるようにスネークの手前、右の90°コーナーに向かって、閉じたスロットルを右手で開いてやる。「よし、よし」まずは上出来な“跳躍”にホッとしながら、思いっきり空気を吸い込む。家を出てからの“思い”は、ふっと消えて無くなっていた。

<つづく>