Les Paul

出来損ないの息子に自由を奪われて、毎朝carryに乗り込み、駅までの10kmを一緒に走る。ryoに譲ってからというもの、わざわざ標準装備から換装したスピーカーに洋楽が流れることはない。朝のハンドルはワタシ。マニュアル5速の660ccは、社会人になってからしばらく乗り続けてきただけあって、慣れた感触でアスファルトを進んでいく。雨が降っても太陽が照っても、春先から来る日も来る日も、同じことの繰り返しだ。カラオケに使えそうな旋律が鳴ることなく、“打ち込み”が刻む揺れない音とそれに合わせた若くて甘い声が、スピーカーを静かに震わせている。

そんな一週間にあって、木曜日の朝だけ、ポンと一人にされる。留年していても週休三日とは、何とも贅沢な話だ。貴重な朝は、それでもcarryに運んでもらう日が続いていた・・・それが、今日だけは違った。「使うかも・・」と言うryoにcarryを残し、Bongoの鍵を右手の親指と人差し指の腹でつまんで、玄関を出る。高い座席から平日の朝の光を見るのは、ひさしぶりのことだった。そのまま右手でハンドルの下に鍵を入れ、ペダルが床について止まるところまで左足でクラッチを踏み込んでから、鍵を前に倒すように回す。

弱々しく音を立てたエンジン。オートチョークのおかげで、エンジン回転が無理矢理引き上がられている。少し待って、ギヤを2速に入れて、駐車場から左へと出ていく。1速が使い物にならないのはcarryと同じだ。そう言えばKISS ALIVEⅣのMDが入れたままだった・・・再現性の悪いスピーカーからは、トミー・セイヤーの粘ったリフが聞こえる。Psycho Circus・・・ちょうどギターソロが終わったばかりで、ポールが会場に向かって言葉を投げている。コーラスに移ったところで、プレーヤーのボタンを左に倒して、曲を最初に戻す。重たいギターリフで始まるPsycho Circus。リフを口ずさんでいると・・・雑誌で見たレスポールが頭に浮かんできた。

cherry sunburstの3P.U。『Ace Frehley “Budokan” Les Paul Custom』。本家Gibsonのものは、作りもいいけど、あまりにも高価だ。梅雨時のおもちゃにしては・・・ちょっと高すぎる。Epiphoneのレプリカ・・・いやいや、それでもずいぶん値が張る。お手頃な『Blitz BLP-STD』なら・・・雨の6月も楽しく過ごせるかな?Les Paul Customじゃないけど、もう一度握るにはちょうどいいかも・・・かなり気になる一本だ。