イバMOTO 13(完)

そのまま緩く長い下り坂から、サンドセクションを抜けてフィニッシュラインをまたぐ。並んだ“師弟”の走りに、saitoさんはどんな言葉をかけているのだろうか・・・と思う間もなく、ココも苦手なホームストレートへの折り返しが迫る。スロットルを煽りながら、踏みすぎないように注意して、ブレーキペダルに右足を乗せていく。固く乾いた斜面が、急いた分だけ、リヤタイヤの駆動を奪う。斜めになったRMが少しだけ頂点から跳び上がり、ゆるりとホームストレートへ下る。午前中の練習で、リヤタイヤからバレたRM・・・左ひじを思い切り打ちつけたトラウマが、右手の動きを鈍くする・・・慎重にコーナーを回るたび、後ろからCRF150RⅡが詰めてくるような気がして、口の中がからからだ。

第2コーナーを立ち上がると、対向するようにダブルジャンプを大きく跳び上がるCRF150RⅡが映る。#2・・・SEクラスで“頭”を張る走りとは、10分足らずでこれだけの差になる。食い付いていけるのはmukaさんか、万全のnagashimaパパか。どちらにしても、これで同じクラスとは聞いて呆れる。ryoに笑われても仕方がない。短いストレートを加速、第3コーナーのインを早めにつぶして、テーブルトップからフープスに駆け下りる。フロントタイヤが上向き加減のまま、最後のコブを抜けて、CRFの影を追い払うように、アウトいっぱいへ立ち上がる・・・ロングテーブルトップの脇で二台を追う目線が、わずかに往復する。師匠は、少し遅れたようだ。L1をていねいに走りきって、何とかサンデークラスの前でチェッカー・・・今年初のレースが終わった。

小さく上げた左手と一緒に、最後の折り返しをホームストレートと反対側に折れていく。パドックを過ぎて、RMをサイドスタンドに預けると、途端に汗が噴き出した。両脇をちょっとずつ持ち上げて、きつめのVFX-Wを脱ぎ、タオルで汗をぬぐいながら、冷たい井戸水をかぶりに歩いていく。明るい光の中、正面からサングラスをかけた“隻眼”の獅子が近づいてきた。こちらを見るなり、親指を空に向けて、口角をふっと上げる。めったなことでは褒められることもないし、いつもハッパをかけられるばかりだったのに・・・ただ、微笑みかけてくれるのが、何よりうれしかった。nakaneさんに「よく片眼で走れるよなぁ。オレには絶対できない」と言わしめるnagashimaパパ。イバMOTOは・・・ワタシを、ryoを強くしてくれる。