雨の季節

失敗した。

RMと出かければよかったかもしれない・・・そんな思いを抱えながら、部屋を行ったり来たり。掃除機をかけて、一週間分のワイシャツを洗濯機に放り込んで、すっかりシロとネロを置き去りにしていたら・・・失敗した。五感のうちで、もっとも自信のある聴覚が、窓の外から音を拾う。細かくアスファルトを打つ音は、かすかに、規則正しく、ガラス越しの耳に届けられる。「先に行っておけばよかった・・・」と玄関の上がり口の横、二段に積み上げられたゲージに視線を寄せる。よっぽど聴覚に優れた彼らにも、湿り気のある音は聞こえているはずなのに・・・素知らぬ顔で、ただ、真っ黒の丸い瞳をこちらに向けて・・・いつ外に出してくれるのか、探るようにくりくりと濡れていた。

雨粒は、さっとアスファルトを黒く汚していって、いつしか屋根からこぼれた滴が窓を叩いていた。予報は外れない。埼玉は、本降りの雨になるようだ。寝癖を直した髪に雨よけの帽子をかぶり、背中にYAMAHAと白く書かれたレインウェアをはおって、玄関を出る。大粒の雨にくじかれることなく、一直線にいつもの草むらに走り出すシロとネロ。彼らのお楽しみは、このくらいでは破られない・・・・ふくよかな背中を見せるシロと、まだら模様で細いネロの背中。短く刈られた雑草の中に並ぶ彼らに、あの頃のナノハナが映る・・・。

雨の日でも、水たまりの中に喜々として突っ込んでいっては、左右に大きな羽のような水しぶきを上げて走っていたあの頃。あちこち錆が出るとか、リヤサスペンションのリンクに水が入ってベアリングがダメになるとか・・・全然気にしなかったあの頃。CR85Rにmuraが苦労していたあの頃・・・あれから6年が過ぎようとしている。積まれた時間には、得られるものばかりじゃない。失うものもある。利根川の河川敷しか知らなかった雨の季節が、ガラス窓の上から、にじんで流れ落ちる。