誰のもの?

東京の下町で過ごしていた頃は、まだ小学生だった。毎日に不満はなかった学校の帰り道、口にするのは決まって駄菓子で手に入れるものばかり・・・口の中は真っ赤や真っ黄に変色して、不純な色だということは一目瞭然。子ども心にも「合成着色料」がどういう代物か、感じずにはいられなかった。それでも子ども同士、小さなベロを出し合っては、もののけのような舌を見て大笑いしていた・・・だから“不満”なんて言葉の意味がわからなかった。「ヤクルトジョア」が発売されたのは、ちょうどそんな時分らしい・・・。

イスに座って、正面のカメラに近づいたり離れたり・・・シャイな声で唄うのは剛力彩芽ちゃん。最近よく目にするけど・・・ずいぶん可愛い匂いのする娘だ。ありきたりな歌い方が、彼女をつつむ雰囲気によく合っている。最後に彼女のくだけた笑顔が画面いっぱいに映されるところがお気に入りのCM。思わず「ジョアジョア、誰のもの♪」と口ずさんでハッとする。小さな容器に入った乳製品は、借家住まいの我が家では“高嶺の花”だった・・・。

夕飯の買い物に肉屋までお使いに行けば、決まって「感心だ!」と言われて、一つ余計にコロッケを入れてもらう・・・紙袋から取り出してくる記憶は、ほんのりと温かい。微かによみがえってきた風景の中で、それでもみんな、よく笑っていた。