without music・・・

湿り気に南の夏が混ざっているように、重ったるい風がカラダにぶつかり、空に吸われていく。青は高くにあって、ボロボロとした雲が、帯を解いたように東の空から延びていた。夏空と言うには、少し清々しい感じのする、透明な青・・・このまま秋に向かっても悪くない、そう思わせる空から視線を落とすと・・・土手まで広がる水田には、膝丈に伸びた稲穂が、風に揺られながらまっすぐ空を目指していた。緑の風が地を這うように、うねり、舞い上がる。時折大きく空が鳴るのは、過ぎた台風がまだ南の空気を呼び込んでいるからだ。なぜか「青々とした」水田の“緑”を抜けて、太陽がきらきらと光っている。

この夏、はじめて上着をおいて、いつもと“8分違い”の準急に乗り込んだ。東武動物公園始発の車両。都内に到着する時間が半端だからか、社内の乗客はずいぶんまばらだ。長椅子の両端がかろうじて埋まるくらい。つり革につかまったり、扉の脇にたたずんだり・・・椅子にすき間が無くなるのは、せんげん台に着く頃なのだろう。薄いワイシャツ一枚に、天井の扇風機が生温い風を送ってくる。駅員の声が消えて、東急田園都市線の古めかしい銀色の車体が、騒々しく線路の上を走り出した。上着のポケットにヘッドホンを入れっぱなしだったことに気づいても、もう遅い・・・今朝は、音楽無しの1時間。ヘッドホンは、頒布のバッグに入れておくべきだった。