梅雨の晴れ間に 4

工業団地の入口で、もう一度左にウインカーを出す。しばらくして見えてきた竹林の手前に、遠くからは読めない大きさで「半谷モトクロスパーク」と書かれた看板が立っている。コース入口のチェーンが外されていることにほっとしながら、最後のウインカーと一緒に、砕石で固められた未舗装路へBongoのハンドルをぐるりと回す。すぐに視界を背の高い竹が覆い、空が消えてなくなった。暗がりの先、赤土が陽射しを受けて、きれいな褐色に光っている。短い“トンネル”を抜け、がらんとしたパドックで真っ先に目が留まったのは・・・黄色のRM-Z250。もちろん、ざりぱぱのマシンじゃない。ここでよく顔を合わせる父子は、年式違いのRM-Zをいつも仲良く走らせている。息子が高年式のマシンを駆るというのは・・・どこの家でも同じようだ。そのRM-Zが一台しか見えない。二人のうちどちらかは、まだコースの上にいるらしい。ゆっくり近づいていくと、リヤホイールに泥がべっとりとこびりついている。「やっぱりマディか・・・」弱気な心を見透かしたように、パドックの真ん中で、Bongoのリヤタイヤが空回りを始めた。前に進まなくなったBongo。「あっ、やば」ギヤを2速と後退、交互に入れて車体を前後に揺らしてみても・・・タイヤはどんどん埋まっていくばかり。怪訝そうな顔でこちらをうかがっているのは、oneのウェアを着た息子だ。身を乗り出すようにして、運転席の窓から顔をのぞかせると、ようやく笑顔になって、Bongoのフロントを押しに走ってくる。何とか深みにはまらず、ワダチを後ろに抜け出したBongo。フロントガラスの向こう側では、薄く茶色に染めたまっすぐな髪が、右に大きく傾いていた。

<つづき>