梅雨の晴れ間に 9(完)

木に覆われた右の逆バンク。陽の当たらない路面は、鈍いエボニーブラックだ。イン側に刻まれたワダチは、途中から三本に散らばって、坂を上がるように延びている。一番手前のワダチに入って、少し乱暴にスロットルを開けると、一瞬でRMが真横を向く。ここは相変わらずだ。MX408で言えば、スネークヒルの上り口・・・日陰か日向かの違いはあるけれど、ワタシにとっては、どちらも鬼門。それでも、覚悟している分、ココの方が走りやすいかもしれない。黒い路面はそのまま斜面となり、それを跳び越え、もう一段高いところに跳び乗る頃になって・・・ようやく薄い褐色に戻る。その先にまた、ダブルジャンプが待っていた。

二つのジャンプの間隔は短いし、二つ目のコブも低いし、頑張れば何とかなりそうだけど・・・ここの直線は、意外と上り勾配がきつい。2スト85マシンだと、手前のステップアップから速度を乗せていかないと・・・跳びきるのは難しい。失速したRM85Lは、ゆるやかに上下動を二回続けるだけだ。最後の「テーブルトップジャンプ」・・・と言うには真ん中が削られている、低いジャンプを越えれば、左に小さなコースの入口が見える。ワタシには多少“厳しい”ところもあるけど、開けて走れるのは・・・やっぱりうれしい。

コースの半分以上が林の中。そこから光の中に飛び出すと・・・太陽が赤土を白く光らせていて、照り返しが眼に眩しい。木の葉に揺れる空は、もう夏の青に近い。梅雨の晴れ間と片付けてしまうのがもったいないくらいに、乾いた青空だ。直線の上、汗の浮いた首筋に、からりと涼風が触れていく。林にこだまする4ストの轟音さえ、心地よく耳に届く。これで、悶々とBongoのハンドルを握って帰ることはなさそうだ。光あふれる半谷の森に、2ストの甲高い音が抜けていった。