ツキが・・・

北千住を22:09に発車する「区間急行太田行き」。6両編成は太田行きの最終電車だ。二列に並んだ乗客の、一番短い行列を選んで・・・ホームを少し歩く。前から3両目の一番後ろのドア。ラーメンマンを思わせる偉丈夫の真後ろにつく。細く編んだ髪の毛が、黒いひものように後頭部で結ばれて、うなじに垂れている。若いとは言え、なかなか思い切った後ろ姿だ。そこからすうっと視線を左に流して、天井からぶら下がった案内板に焦点を合わせる。電車の到着時刻と行先を案内する電光掲示板だ。その真ん中に、丸くて大きなアナログ時計が埋まっている。長針は、区間急行の到着時間が過ぎていることを指していた。22:00。クルマのハンドルを握るときの呪文が頭に浮かぶ。ハンドルを握る手は、10時10分の位置に・・・今では片手を真円の最下部に添えるだけですましている。両手を10時10分の位置に乗せるのは、何かの気まぐれぐらい。ずいぶん偉くなったものだ。2分ほど遅れてやってきた終電車は、浅草から出てきた車両らしく、イスがまばらに空いている。前から数えて6番手・・・ほとんど降りる客の居ないドアから車内へ上がっていくと・・・目の前の長椅子に、ちょうど一人分の空間が見えた。北千住から座れるのは、ずいぶん運がいい。朝からツイていなかった金曜日、これでようやくツキが帰ってきたかな?