Sachsenring 3/3

路面に“肩”が擦れるんじゃないかと気をもませるように、静かに深く、寝かしつけられる車体。唯一路面と接するタイヤのおかげか、フレームと足回りの進化がなせる技か・・・どこかデジタルな感じのするマシンの動きも、また現実離れした映像で、自分のいる世界とはまったく違うところをのぞき見ているような気さえしてくる。

逃げる方も追う方も、互角でまったく譲らず・・・前を走るペドロサに、コーナーのたび、ストーナーが迫る。競ってこそのレース、タイヤが触れ合わんばかりの一騎討ちは見応え十分だ。できれば色違いでの接近戦を見てみたかったけど・・・この二人に敵う相手が、今日のザクセンリンクにはいなかった。

前を行く二人の駆け引き、そして、バレンティーノ・ロッシを中心にした中盤のせめぎ合い・・・それらを交互に映しながら、時折「CRT勢の先頭は・・・」などと、聞き慣れない単語を発する実況。商売柄“CRT”と聞けば、「ブラウン管?!」の文字が頭に浮かぶけど、この世界ではしっくりするはずもない。気になりながらも・・・レースは最後の一周に入っていった。

ペドロサ、ストーナーの並びは変わらず、第一コーナーを二台のRepsolが右に回り込んでいく。そこから数えること12・・・「この周回で前にいることがすべて」、その思いを募らせたのはストーナーだった。勝負どころの最終コーナーでラインを交差させるべく、仕掛けていく・・・最終の手前、左にゆるく曲がった第12コーナーで、ペドロサの右横にストーナーが並びかける・・・。

「シュワンツの再来か!?」と身を乗り出した瞬間、万事休す・・・レースが終わった。#1のマシンは、フロントタイヤが切れ込むようにして倒れると、そのままアウトの砂へと流れていった・・・。鮮やかな色彩のユニゾンは消え、ストーナーがコースに戻ってくることはなかった。

<番外編につづく>