お盆休み

薄いナイロン地から広がる雨音は、テントの中で目覚めたような気分にさせてくれる。駅までのいつもの道に、歩く姿はずいぶん少ない。通りを流すクルマもまばらで、路線バスから降りてくる人影も数えるほどだ。世の中はお盆休み。「帰省する」と言うには、ちょっと東京に近すぎる・・・そんな中途半端な田舎町にも、暦どおりに旧盆はやってきた。赤紫色の傘の下、どこかなつかしい音を聴きながら、濡れたアスファルトの上を歩いていく。ホームに入ってきた急行は、昨日も今日も座席が空いていた。

ささやかな幸福感で、冷房の効いた車両の中、ゆっくりと腰を下ろす。それでも、席は埋まらない。終点の北千住駅まで、ついに満席になることはなかった。入れ替わるように下りホームに停車した「東武日光鬼怒川温泉行き」の区間急行は、何と満席!立っている人まで居る。ボックス席では弁当が広げられて、窓際にはお茶のペットボトルがいくつも並んでいる。あいにくの天気でも、温泉は癒してくれるだろうし、眠った猫も三匹の猿も歓迎してくれるだろう。ガラス越し、声のしない笑い顔がちょっとうらやましい・・・。