軽二輪で行こう 1

「出来の悪い子ほどかわいい」と言うけど、それもせいぜい義務教育に通っている間ぐらいのもの。そこから先も出来が悪いままだと、余るかわいさもないほどに、憎々しい存在だ。その彼に奪われて・・・6畳のガレージにも、ブロンズ色したカーポートの隅にも、ナンバーを付けたマシンは居なくなった。RMやCRFでは、家の近所を走り回るのが精一杯。とてもバスが通る“天下”の公道を走るわけにはいかない。半年が過ぎて、去年と同じ輝いた夏。光るアスファルトと、どこまでも青い空。真っ白な雲を数えてゆっくり見渡すと、はるか那須秩父の山並みが、青黒くかすんでいる。出来の悪い息子と初めて連んだ信州の深い山々は、今でも瞳の奥に鮮明だ。ひと頃の盛りは去ってしまったけど、まとわりついてくる熱気が、夏の中に居ることを思わせる。1000m級の山間を漂い、マイナス6℃に歓喜する・・・肌に染み着いた感触が、立ち寄った本屋の書棚から一冊を選ばせた。そこには、モトクロッサーではないマシンが、いっぱい集められていた。

<つづく>