ツクツクボウシ

あきれるほど青く晴れた朝。風はなく、歩道と車道の境を延びるガードレールに縛られたのぼりが、長方形のカタチのまま、だらりとしている。少し離れたところに建つ小学校の脇、雑木林の緑はじっとして動かない。太陽が対向車のフロントガラスに映り込んで、眩しく照り返してくる。細めた瞳の中、自転車に乗った初老の女性が、駅へと急いでいた。東京は、朝から湿った空気につつまれて、昨日よりもべたっと暑いらしい。日テレのお天気お姉さんが、画面でそう笑っていた。田んぼの広がる田舎町では、まだ空気はひんやりしていて、空から降るヒカリだけが肌を射るように強烈だった。普段から通勤する姿の少なめな水曜日は、お盆休みの名残もあってか、いつもよりもっと静かな感じだ。クルマも少なく、道路も空いていて、人影のない街並みは・・・夜行性の昆虫たちが、みんな土の下にもぐってしまったみたい。締め切った運転席には、音さえ届かない。そのまま県道を右に曲がって駐車場に入り、ドアをバァーッと開け放つと・・・耳慣れた抑揚をつけて、ツクツクボウシ

独唱を始めた。ヒカリの季節も、いつしかひとつ、角を曲がっていた。