カブトムシ

シロとネロを引き連れて、田んぼの脇をだらだらと歩いていく。8月も終わりに近づき、日の出も遅くなってきたのだろう・・・土手に向けられた視線に、白い太陽が絡んでくる。まぶたを落として眼を細めても、あふれる光は、まったく遠慮なしだ。仕方なくうつむき加減で陽射しに正対していたカラダが、小さな十字路で左に折れる。今度は、カラダの右半分だけが熱せられて、右手のシロ、左手のネロ、真ん中のワタシが、揃ってアスファルトに影を映す。下を向いたまま、規則正しく歩を進める・・・自分と同じように動く黒い影は、なぜか奇妙な感じがした。

照り返しのすぐ上に居るから、シロもネロも、すでに家を出た時の元気は無い。きれいな桃色の舌を長く垂らしては、ハアハア、ハアハアと荒く息を吐く。時折鼻を下げてはクンクン・・・ネロも、ずいぶん犬らしくなった。そのネロが、また濡れた鼻を落とそうとした瞬間だ。鼻の先で、土埃をかぶった茶色のカブトムシがゆっくりと道路を渡っていた。ツノが短く、小振りなオス。思わずしゃがみ込み、人差し指と親指でツノをつまんで、すっと拾い上げる。暑くて弱っているのか、あまりジタバタしないカブトムシ・・・Tシャツの裾に乗せて、そのまま家へと急いだ。

何年かぶりに見るカブトムシに、ryoの眼が光る。少し弱った“彼”のために、冷蔵庫からスイカを取り出して、端を切り落とす。手のひらに余るほどの大きさに切り分けられたスイカ。カブトムシ一匹に・・・惜しげもなく与えるのが、いかにもryoらしい。薄赤い斜面にへばり付いたまま、動こうとしない彼。スイカごと外に放るのも何だかかわいそうで・・・結局、玄関の靴箱の上、皿ごと置いて、二人で出てきた。帰る頃には、どこに居るだろう。部屋のどこかに飛んで行ってしまうくらい、元気になっていると良いけど・・・。こんなのがうろつくくらいだ、まだ夏は終わりそうもない。