続 アラバスタに雨が降る 4

ずいぶん永く忘れていた気がする・・・。

成人男子と大差ない軽さを、慣れ親しんだ二次曲線に載せるRM85L。そのステップに立ち、フロントブレーキを引きずったままシートに腰をつけて、スロットルグリップをひねる。そこからワタシのカラダは、斜め後ろ、リヤタイヤに向かって押しつけられていく。傾いていた細い車体はまっすぐに起き上ってきて、斜面の先で路面から離れる・・・“ひとつ”になった加速は、クルマじゃダメだ。自転車でも、もちろん自分の脚でトラックを走っても、この感覚を味わうことはできない。バイクにだけ許された、小さな優越。2スト85マシンでも、それは変わらない・・・。右手でひねり出した“力”がチェーンを引っ張り、そのまま車体を前に弾きだす。爽快な気分に満たされて、ヘルメットの中で頬は緩みっぱなし。そんな幸せな周回が、どこまでも続く日曜日だと思ったのに・・・。

遅れて到着した分と、腕に余計な力が要らない分とで、蒸し暑いコースを疲れるまで走ってから、パドックへと戻る。kidsの数が少し増えただけで、パドックはガランとしたままだ。「何で来ないんだろう、もったいない」tohdohさんが言うとおり、ここまでの“ベスコン!”は、そうお目にかかれない。確かに「もったいない!」。地面からの湿気は、濃淡の灰色に塗り分けられた空に閉じ込められ・・・その上に隠れた太陽のせいで、止まると汗が吹き出てくる。朝方にコースを濡らしただけで、雨はもう落ちてこないのかもしれない。マグボトルの口から、冷たいスポーツドリンクを流し込み、ビニール製のデッキチェアーにカラダを落とす。とにかく、この気分がもっと続けばいい。ただ、それだけを思って・・・。

<つづく>