続 アラバスタに雨が降る 7

<9/11の続き>

近づいて来た時と変わらない速さで、空一面の墨色が、西の空へと離れていった。雨は止んで、頭の上も少し明るくなってきた。残されたのは、大小の茶色に汚れた水たまりだけだ。バックドアーの端から滴る雨も無くなった頃、85マシンが一台、2ストのけたたましい排気音をまき散らしてコースに消えた。KX85Ⅱ・・・華奢な感じの女の子だけど、お父さんの教え方が良いのか、なかなかの走りを見せる。開けっぷりの良さが、そのまま竹やぶに反響して、スネークヒルを駆け降りる。音を聞く限り、さっきの大雨はさほど気にならないらしい。あれだけの雨を吸い込んだとでも言うのか?すでに心が折れかけていた背中の後ろで、2と4の音が入り乱れ、パドックがにぎやかに騒ぎ出す・・・いつの間にか着替えをすませたuchinoさんが、nakaneさんの後を追って、コースに向かっていった。

コースからはマシンが戻ってこないし、隣のKX250Fにも火が入って、RMだけが取り残された・・・しかたがない、「帰る前にちょっとマディでも見てこようか」と、期待するどころか半分嫌々、ブレストガードをかぶり、ヘルメットを着ける。ビニール製の黒いシートは、すっかり乾いて、足下に広がった水たまりも、ずいぶん面積が小さくなっている。右手で、まだ水滴の残るキックペダルを引き出して、足をすべらさないように、真上から慎重に蹴り下ろす。降る前と変わらない高音が、雲の広がる空に向かって白い煙を連れていく。さてさて・・・“曲がらない、止まらない、まっすぐ走らない”気狂いマッハの走りを思い浮かべながら、スタートラインの後ろを走る。水たまりは点々としているだけ、RMの進路を邪魔するものは見当たらなかった。

<つづく>