続 アラバスタに雨が降る 8

スタートラインについて、全開のエンジン回転を左手で解放してやる。リヤタイヤは空転する間もなく、黄色の車体が、一気に第一コーナーへ・・・途中、一瞬だけヨレたけど、あれほどの雨を吸ってなお、路面はしっかりとしている。それほど乾ききっていたと言うのか?さすがにフープスのコブとコブの間には、茶色く水がたまっていたけど、全体が崩れることはなかった。バックストレートからロングテーブルトップ、スパインからのダブルジャンプ、そして、スネークまで・・・そのスネークに入る短い直線に大きな水たまりができているだけで、他はどこもふつうに右手をひねることができる、それも思い切りよく・・・まったく、マディなんかじゃない。二周目からは、コブのはっきりしたフープスを跳んで抜けていく。濡れたフープスに挑めるなんて・・・とても雨上がりとは思えない。

スネーク手前に残った水たまりと、ふやけてしまった第一コーナー。でも、それを除けば、極上の一本目と比べても、土の状態は悪くない。それが証拠に、ほとんどのマシンが、パドックに帰ることなく走り続けている。豪雨がさらっていったはずの路面に、喜びが戻ってきた。とりわけバックストレートは、立ち上がり、適当に駆動が逃げていくせいか、開けっ放しで走れる。あやうくもったいない思いをしてしまうところだった・・・“カチパン”じゃ、こうはいかない。走っている間は、カラダも蒸し暑さから解放されて、どこまでも快適。わずか数秒間の直線が巡ってくるたびに、口元がゆるんでしまう。もはや“練習”ではなく、ただ走っているだけ・・・それも無心で、辺りを走る子どもたちよりも、もっと幼い気持ちで。それなのに、このまっすぐな楽しむ気持ちが、また雨に流されてしまう・・・。

<つづく>