続 アラバスタに雨が降る 9

ちょうどバックストレートを加速し始めた時だ。ゴーグルに雨粒が弾けた。つぶれた水滴が、視界を邪魔する・・・落ちてきたのは、かなり大粒の雨。こうなると、“あと”は早い。レースさながらの急いた走りで、スタート地点へと急ぐ。せっかくの満ち足りた気分がずぶ濡れになってしまわないように・・・「何とか持ってくれ!」と祈るような気持ちで、空と路面とにあいまいな視線を落とす。どうにか間に合って、ヘルメットを脱いで、ブレストガードのバックルに手をかけた瞬間、辺りが雨に煙って真っ白になった・・・saitoさんが気に病んでいた“第二波”は、さっきよりも大きくて密な粒で降り注ぐ。パドックがひとつの大きな水たまりになるまで、そう時間はかからなかった。風も強く巻き上げていて、バックドアーはもちろん、あちこちに建てられている簡易テントも、役には立っていない。一方的に濡らされる左半身に、たまらずbongoの荷室にもぐりこみ、バックドアーを静かに下ろす。窓ガラスの外だけじゃなく内側も、すぐに白く曇ってしまった。

雨は、左斜め上から容赦なくぶつかってくる。車内はかなり賑やかだ。その土砂降りの雨音のはるか遠くから、4ストのこもった破裂音が響いてきた・・・そう言えば、荷室に逃げ込むときにも、nakaneさんたちのマシンは見えなかった。「えっ!?」と、工具箱に掛けていた腰を浮かして、バックドアーの方に顔を近づけていくと・・・今度は、2ストの耳障りな高い音が、キャンキャン吠えながら、坂を下っていった。たぶん、uchinoさんなのだろう・・・あわててバックドアーに結露した、薄い水の膜を手で拭い、雨に煙るスネークヒルに目を凝らす。ほどなく、さっきの轟音が帰って来た・・・坂の頂上で折り返したフロントに、#2が見える。やっぱりnakaneさんだ。その後ろから来る橙色の車体には、#93が刻まれている。nakaneさんが走っているのに、uchinoさんが止まる訳もない。ひとしきり雨の中を愉しんで、二台のマシンがパドックに帰ってくると・・・ようやく雨雲も薄くなって、雨が小降りになってきた。

<つづく>