さすがに・・・そろそろ焦る。

湿った夜に、甘ったるい金木犀の匂いが、淡く漂う。どれだけ昼が騒がしく照らされても、季節は移り、夜はしんみりと静かだ。十六夜の月は、黒く張られた雲の上にあって、その姿を見つけることができない。駅を背に、東に向かって走るcarry。助手席と運転席の窓ガラスを5cmほど落としただけで、車内が冷気に満たされていく。絶対に“短い”秋は、出遅れた分を必死に取り戻そうとしているようだ。660ccの3気筒が、その冷えた空気を吸って、ご機嫌に回り続ける。ガソリンエンジンにとって、ずいぶん具合のいい気温になってきた。

9月の初めに乗ったきり・・・この週末に乗らなければ、丸々ひと月以上、キックペダルに足を掛けないことになる。いくらマシンの機嫌が良くても、カラダが鈍らじゃあ思いきれないし、何より日曜日に仕事が入っていては、走り出すことすらできない・・・。国道4号線のバイパスを渡る交差点。赤信号につかまって、そんなことに思いを巡らす。今動かせるのは、muraの愛機CRF150RⅡだけ。頼んでおいた部品も取りに行かなきゃならないし・・・まだ“魔法の券”があるうちに、CRFで遠征前の肩慣らし・・・ちょっと、いいかもしれない。信号が青になって、すぐ前のhonda elysionと一緒に、バイパスを越えていった。