ライムグリーン、発進。 6

9時15分。「あと5分で、2スト85、4スト150の走行が始まります・・・」saitoさんの声が、古びたスピーカーを唸らせる。いよいよ、発進だ!チョークノブを真横に引っ張り出してから、シートにまたがる。少しもへたっていないスポンジとサスペンションに、“短い”両足のかかとが宙に浮く。右手でキックペダルをはたくようにすると、何の抵抗もなく、するりとペダルが出てきた。

ただ、エンジンは、すぐにはかからない。上死点もよくわからないまま、やわらかなペダルの感触を、何度も踏み下ろす。踏みしろが短いから・・・いきおい右足がペダルから外れて、そのたびに空を切る。周りのマシンに、次から次へと火が入る中、ようやくKXからも声が上がる。その声は、カン高くて、白い煙にまみれていた。

十分エンジンを暖めたところで、もう一度シートにまたがり、クラッチを握る。右手を閉じると止まりそうになるのは・・・アイドル調整をサボったからだ。シフトペダルを踏み込み、ゆっくりと左の人差し指を開いていく・・・あっけなく走り始めたKXは、まぎれもなく2スト85。先週のCRF150RⅡと比べたら、その車体の軽いこと・・・これだから2ストマシンはやめられない。

少し遅れて、たどり着いたホームストレート。KXの上から眺めると、変り映えのしない第一コーナーにも、不思議とワクワクする。コースの流れに乗る前に、左に三回、大きく円を描く。次は、右に三回・・・薄いガラスにでも触っているかのように、たどたどしい走り。してはいけないことが多くて、すっかり臆病になる。あまり神経質になるつもりはないけど、ホントの最初ぐらいは大事にしてやりたい。

<つづく>